会長挨拶

挨拶

立教大学社会学部 教授 木村忠正

2023年度より、社会情報学会(SSI)の会長を拝命いたしました。SSIに集う会員の皆さまには、社会と情報との関係についての深い洞察のもと、私たちの社会の可能性を広げ、課題を見出し、ソリュージョンを模索する調査研究活動に取り組まれており、小職自身、一会員として、常に大きな知的刺激をいただいてまいりました。

ネットワーク型の活動組織であり、既存の学術領域の枠組みに囚われず、個々のメンバーの創意工夫により、ダイナミックな研究活動を生み出していくことが、SSIの特徴と認識しております。副会長の國領次郎先生、坂田邦子先生はじめ、理事、評議員の先生方のお力を借りながら、会員の皆さまに、積極的に研究活動を展開し、交流を生み出す場として、SSIが発展することに、少しでも貢献することができればと考えております。

「社会情報(学)」は、1990年代前半に制度化され(1991年札幌学院大学に社会情報学部設置、1992年東京大学新聞研究所が「社会情報研究所」に改組)、1996年に「日本社会情報学会」が設立されました。日本社会情報学会は、2012年(一社)社会情報学会へと改組し、現在に至っております。

改組の際に中核的な役割を果たされた西垣通先生、伊藤守先生編纂の『よくわかる社会情報学』(2015、ミネルヴァ書房)では、「社会情報学(social informatics、socio-informatics)」を、「社会における情報現象の総体を対象に、その特質を理論的にかつ実証的に明らかにする学問」(前掲書:ii)と定義されています。このような意味における「社会情報学」は、21世紀、社会全体のデジタル化、データ化が爆発的に進展するとともに、深層学習によるブレイクスルーが、データ分析、人工知能の革新を劇的に加速し、人類社会に大きな利便性、可能性と深刻な課題をもたらしている現在、重要な役割を果たす学術領域と認識しております。

2022年に10周年を迎え、小職自身が、改めて日本の高等教育における「社会情報」を検索したところ、学部、学科、専攻、コース、プログラムなど、短大、大学、大学院を問わず、様々な単位で社会情報を含んだ名前の教育組織があり、研究教育活動を展開されていることが確認できました(小職が把握したところ22組織)。「社会情報」概念の重要性は、改めて高まってきており、2023年度には、和歌山大学で「社会インフォマティクス学環」が開設され、2024年度、東京工科大学コンピューターサイエンス学部に「社会情報専攻」が設置されました。

SSIでは、修士論文報告会(日本メディア学会との共催)をはじめとする若手研究者の研究支援、顕彰、地域支部活動、新たな研究に取り組む研究部会制度など、多様な会員の皆さまの活動を積極的にサポートする仕組みを展開しております。他方、「社会情報」概念は優れて包摂的、多層的、複合的であり、研究活動が多様化しており、相互の交流が重要となるとともに、高校生や大学生に、その魅力を伝え、どのようなカリキュラムで、いかに教授するか、課題も多くあります。

そこで、2023年9月の社会情報学会大会では、「社会情報」が学部、学科、専攻、コース、プログラムなどの名称に含まれている大学、大学院に声をかけ、カリキュラムや教授法の工夫、研究活動の展開などを念頭におきながら、意見交換、交流を行うワークショップが開催いたしました。幸い、ワークショップは、熱気に満ちた交流の機会となり、ワークショップでお話いただいた各大学の先生方、ご参加いただいた皆さまに、改めて心より感謝申し上げます。

20世紀から2020年代までのネットワーク社会の進展を、技術面から捉えると、デジタル+ネットワーク+モバイル+AIという4つの技術が累積的に発展することで、私たちの生活空間に大きな変革をもたらしてきたと捉えることができ、社会情報学は、まさに、こうした社会における情報現象の総体にアプローチし、課題と可能性を掘り下げ、学術的にも、社会的にも、調査研究により貢献しうる分野であると確信しております。上記ワークショップの試みをはじめ、会員の皆さまとともに、学際的な協力と知識の共有を促進し、革新的なアイデアが育まれる場として学会が発展するよう、微力を尽くしたいと存じます。力が及ばないことも多いとは存じますが、社会情報学会の理念に共感し、活動に参加してくださる全ての皆様に心から感謝し、お一人お一人の積極的なご参加をお願い申し上げます。

 

(2024年4月)