社会情報学の魅力

立教大学社会学部 木村忠正

 SSI初代会長の伊藤守先生は、SSI発足時に、多くの会員が分担執筆し、西垣通先生と伊藤先生で編纂された『よくわかる社会情報学』(2015、ミネルヴァ書房)において、「社会情報学」という学術領域を、次のように規定しています(伊藤先生の原文をもとに、木村が編集しております。この点、ご留意ください)。

社会情報学は情報学という大きな学問領域のなかの1つの分野を占める、可能性に満ちた「発展途上の学問」といえる。情報学は、生命現象の根幹をなす遺伝情報に関する分野、知覚・記憶・判断などの生命体の脳と神経システムから構成された個体内情報に閲する分野、そして社会システムを構成する社会情報に関する分野、さらに機械的情報処理を専門とする分野という4つの分野から成り、それぞれのレベルの情報現象のメカニズムを明らかにすることを通じて情報に関する一般理論の構築をめざす学問である。社会情報学は、その中にあって、社会における情報現象の総体を歴史的(通時的)に、そして理論的にも実証的にも明らかにし、近未来のよりよい社会の在り方を情報の視点から構想する重要な研究分野なのである。(伊藤 2015: 13-14を木村が再構成)

 この規定に見られるように、「社会情報学」は、森羅万象を「情報」という観点から考究する「情報学」の一翼を担う分野と位置付けられ、社会における情報現象に関心を持つ研究者が文理の垣根なく集い、学術的活動を展開しています。

 情報技術は、20世紀から2020年代まで、デジタル+ネットワーク+モバイル+AIという4つの技術が累積的に発展することで、私たちの生活空間に大きな変革をもたらしてきました。その変化をとらえようとする学術的領域として、コミュニケーション研究、メディア研究、ソーシャルデータサイエンス、計算社会科学、人工知能研究、科学技術社会論など、多種多様な分野があり、それぞれに核となる概念(コミュニケーション、メディア、データサイエンス、コンピューティング、AI、科学技術など)とその学術的意義を認めることができます。

 このような文脈で、「社会情報」は、まさに「情報」という概念を中核とし、情報自体の意味を問いながら、社会と情報との関わり(互いに独立しているのではなく、相互に他方を内に含み規定し合う関係性)について探究していく学術領域です。筆者は、学術的議論において、explanandum(説明される対象)とexplanans(被説明対象を説明する概念)が織りなす重層的関係性の認識が重要だと考えます(例えば、拙著『ハイブリッド・エスノグラフィー』2018, 新曜社, pp.105-106参照)。つまり、「社会」「情報」は、何か議論の対象を説明する概念として用いられるとともに、それら自体が、さらに説明、解釈、理解の深化を必要とする概念でもあるということです。

 また、IT(情報技術)というと、狭義にはデジタル技術を指しますが、「情報」は、森羅万象に宿ると考えられるものであり、上記伊藤先生の規定に見られるように、「情報学」は、生命現象からコンピューティング、社会、ヒトまで、広大な領域を射程に収める学術領域です。そこで、「社会情報学」にとっては、「魚の目」が重要だと筆者は考えます(上記拙著第9章も参照)。海面が時々刻々と激しく変化するのに対して、深くなるほど、海水流動は緩やかとなるイメージに、学術研究対象の変化するスピードを重ね合わせると、社会情報研究の場合、表層では、1000分の1秒単位の金融取引から、1秒間に数十万ツィートが集中する「バルス現象」などが湧きたち、徐々に深度が下がるにつれて、半年から1年毎にリリースされるスマホ、LLM、数年単位でのネットサービスの盛衰、数年から十年単位の地域社会、企業・行政組織の変化やデジタルネイティブ、ソーシャルネイティブ、スマホネイティブ、AIネイティブなどの世代変化と、研究対象自体の持つ時間軸が異なります。

 さらに、金融取引について考えてみれば、仮想通貨、ブロックチェーン、金融工学など、海面近くで激しく流動する現象をそれ自体として理解する必要があるとともに、貸借、手形、債券、貨幣、為替、先物取引など、紀元前から人類社会で積み重ねられてきた実践、制度の長期にわたる文脈に位置づけ、考察することもまた不可欠です。

 社会情報学は、「社会」と「情報」を核概念とすることから、こうした魚の目の多様な深度での調査研究活動が行われている学術領域と筆者は強く感じています。とくに、情報技術は、その革新性、変動性から、海面での動き、変化に焦点があたりがちですが、社会情報学領域では、最先端の動向から、歴史的変化、進化論的時間での議論まで、ヒト、社会の営みを、多様な時間軸、深度で、情報を媒介として探究する研究が多面的、複合的に展開されています。そして、絶えざる革新は、社会情報を常に「発展途上の学問」とし、関わる研究者を飽くなき知のフロンティアへと誘ってくれます。こうした「社会」と「情報」を核とする、学術関心の多層性、複合性、革新性が、筆者にとって、「社会情報学」の大きな魅力であり、多くの方に関心をもっていただくことができればと考える次第です。